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2025年03月18日 [横浜の通船・ラインボート ]
【安全運航を支える船舶のメンテナンスに迫る!〜もうすぐ建造から30年の押船 剣丸とは〜
はじめに
いつもポートサービスのブログを読んでくださり、ありがとうございます。今回は押船 剣丸のメンテナンスを取材してきました。押船 剣丸がどんな目的で建造されたのか、どんな役割の船なのか…?建造から間もなく30年を迎える剣丸をご紹介します。

押船 剣丸ってどんな船?
押船は主にバージや作業台船を押して移動させるために設計されており、河川や港湾内で活躍しています。ポートサービスにおいては、造船所内で船舶を移動させるために活躍しています。剣丸は96年7月に建造され、来年で30歳を迎えます。同年に建造され、同じく造船所で活躍している扇海丸と剣丸は、東日本で唯一特殊船を押せる船として貴重な存在。両船は造船所内で特殊船を押すのが主な仕事のため、船首の形状は特殊船にフィットするように設計されています。前回のブログで船舶の種類について紹介しているので、そちらも併せてご覧ください。

作業の目的と手順
今回は大手造船所内で活躍する剣丸のハッチの蓋のサビ落とし作業を取材してきました。船員自ら行うこのメンテナンスには、どのような目的があるのでしょうか?
まず一つは、船体や甲板上のサビを除去し、船体の美観を維持すること。そして、さらに重要な目的が腐食の進行を防ぎ、船舶の安全性能を維持すること。サビは鉄を蝕み、構造を弱めます。定期的なメンテナンスは安全運航のために欠かせない作業です。
@ 塗料・サビを落とす
A プライマーを塗布
B 油性塗料を塗布
塗料・サビを落とす
今回はハッチの蓋のサビを落とし、油性塗料の下地となるプライマーを塗布するところまで取材してきました。まずは、作業服に着替えて作業の準備を整えます。防塵マスク、ゴーグル、手袋は飛散する塗料の破片や鉄粉から身を守るための必須アイテムです。


サビを落とすのは、ニードルスケーラーと呼ばれる工具。陸上から供給されるエアーを使用し、パワフルに古い塗料やサビを剥がします。この工具は、複数の細い鉄の芯が、高速で振動することで塗料やサビを落とす仕組み。衝撃がダイレクトに伝わってくるため、革手袋は必須です。



サビを落とすと、鉄肌が見えてきます。続いて登場するのは、下写真の金属製ブラシ。このブラシで削ると、塗装面とサビを落としたところの段差が滑らかになっていきます。


全面の塗装を剥がしてメンテナンスする場合もありますが、今回のようにサビがひどくないときは、部分的なサビを落として、塗料を重ねていきます。3ヶ月から6ヶ月くらいで今回のようなサビの状態になってしまうそうですが、船員さんによると『普段から海水を流したり、丁寧に下地処理をするのが長持ちの秘訣』とのこと。作業の度に真水で船上を洗い流すことで、船体の美観と耐久性を保っています。

プライマーを塗布
ブラシ掛けが終わると、プライマーの登場です。プライマーは仕上げの油性塗料の密着度を高める目的があります。剣丸ではグレー、ブルー、白、グリーンの油性塗料が使われていますが、全ての油性塗料の下地となるプライマーは、メンテナンスの必需品です。下の写真、手元にある4リットル缶の他にも、大容量の缶がハッチ内に保管されています。

塗装などのメンテナンスは、押船作業の合間を縫って行われます。取材時は2月。穏やかな日差しに春を感じるような陽気でしたが、メンテナンスは季節や天候の影響を大きく受けます。例えば、雨などの悪天候では作業が不可能ですし、夏場は塗料がすぐに乾く反面、鉄船の甲板は非常に高温になり、作業環境が過酷になります。そのため、場合によってはサビの上に直接塗料を塗るといった応急処置で済ませることもあるそうです。


他のパーツのメンテナンスと重要性
クリート
作業の合間、2週間前に全体を剥がしてメンテナンスしたクリートも見せてもらいました。全体の塗料を剥がして、プライマー、グレーの塗料を塗った段階です。表面がツルリとして滑らかになっています。さらに滑り止めの砂を撒いて、青の塗料を重ねて塗れば完成となります。
クリート:ロープを固定するための金具。

岸壁や桟橋に係留する際に使われるクリートは固定強度を維持するためにも、定期的なメンテナンスは欠かせません。また、取材時はこのクリートを足場にして乗船しました。朝露や雨で濡れると滑る可能性もあるため、滑り止めとして使われる砂の役割は重大です。

甲板
緑色の塗料で塗られている船首側の甲板は、1ヶ月前にメンテナンスが終わったばかり。一度に全ての面を塗装するのではなく、足場を確保しながらエリアを分けて作業を進めます。

タイヤを繋ぐチェーン
タイヤで覆われた船首は、剣丸の機能性と特徴を際立たせています。この部分を対象となる船舶に押し当てることで船を移動させるため、タイヤは押船の要とも言えます。船体とタイヤを繋ぐチェーンが錆びていると、大きな衝撃ではなくてもタイヤが落下してしまうこともあるそう。こまめな点検とメンテナンスが安全運航に繋がっています。

おわりに
今回は押船のメンテナンスをご紹介しました。実は今回の作業は、エアコンプレッサーによる工具の衝撃と鉄船のぶつかり合う音で、耳栓必須の中での取材でした。振動による衝撃や大きな音は作業をする船員さんもさぞや大変かと思いきや、『ストレス発散になる』とニッコリ。ポジティブな一言に、セーラー服と機関銃を思い出したのは私だけでしょうか☺️
今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。今回ご紹介した剣丸と同型の扇海丸はYouTubeでお楽しみいただけます。ぜひブログと併せてご覧ください。
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